ニューヨークから帰ってきた私は、とにかく舞台衣装家になる方法ばかり考えていた。
知り合いは一人もいない。
どうすればその世界に入れるのかも分からない。
まずは劇団四季の採用試験を受けてみた。
一次試験は通過したものの、面接で馬鹿正直に答えすぎて不採用(笑)。
「やっぱりな。」
そんな妙な納得感だけが残った。
では、次はどうする。
宝塚?
いや、何か違う。
東京へ出る?
そんなことを考えていた頃、神戸新聞で連載されていた、劇団神戸代表・夏目俊二さんの演劇コラムが目に留まった。
その日が、ちょうど最終回だった。
「関西にも、衣装にこだわっている劇団がある。」
そう思った私は、迷わず自分の想いを手紙に綴った。
数日後、一本の電話が鳴る。
受話器の向こうから聞こえてきた渋い声。
そして、にしむら珈琲での初めての出会い。
緊張していたことだけは、今でもよく覚えている。
夏目さんの元で仕事をするようになってからは、ラフ画や資料を見せてもらいながら、
「こんな衣装を作ってほしい。」
という夏目さんのイメージを形にしていった。
照明の当たる舞台で、自分が作った衣装が役者とともに生きている。
それだけで嬉しかった。
でも、最初は戸惑うことも多かった。
「生地を使いすぎじゃない?」
「メイクが濃すぎない?」
そう思っていても、客席から見ると、そのすべてが舞台の中で美しく調和していた。
そこで初めて気づいた。
舞台衣装は、一着だけを見て作るものではない。
照明。
舞台装置。
役者の動き。
客席との距離。
すべてが重なり合って、一つの世界が生まれる。
私は現場で経験を重ねながら、その絶妙なバランスを少しずつ身体で覚えていった。
年月が経つにつれ、衣装づくりを全面的に任せていただけるようになった。
ある時、お客様から、
「蜷川幸雄作品で衣装を手掛けていた小峰リリーさんの衣装みたいだった。」
そんな感想をいただいたと聞いた。
もちろん、その方を目指していたわけではない。
ただ、夏目さんが思い描く世界を理解し、その美意識に少しでも近づこうと積み重ねてきた時間が、少しずつ形になっていたのだと思う。

夏目さんから教わったのは、衣装の作り方ではなかった。
舞台全体の世界観をどう捉え、どう創り上げていくのか。
そして、自分の感性をどう磨き続けるのか。
創り手として、どう在るのか。
あの日から私は、衣装の作り方ではなく、創り手としての在り方を育ててもらった。
